触れ合いを失った現代社会で、人間の本質的な触覚の意味を問う

触れること――それは誰もが最初に覚える「言葉」みたいなものだったのかもしれない。生まれてすぐ、記憶も言葉もまだ無い頃、肌と肌のぬくもりだけで世界を感じていたような気がする。赤ちゃんが泣き止むのも、親や誰かの手がそっと触れたから…そんな光景、何度も見たことがある人もいるだろう。

大人になってからの日々だって、昔はもっと手を差し伸べたりしていたように思う。握手とか、肩に軽く触れるとか、ごく当たり前だった。でも最近、なんとなくその距離がどんどん広がってきた気配がある。直接会わずにメッセージだけ送ること、多くなったし…。抱擁よりは会釈、手を振るだけの挨拶、それで済ませる場面増えてないだろうか。なんというか、人とのつながり自体が少し乾いた感じになってきてる？

専門家によれば「タッチ飢餓」なんて呼び方もされているらしいけど、それは単なる不足とはまた違う、もうちょっと複雑な消え方なのではと個人的には思う。

そういえば昔、自分とは血縁関係じゃないけれど家族同然のおばさんがいた。その人、とにかく人懐っこかった。郵便配達員にもコーヒー屋の店員さんにも、時には知らない子供にも平気でハグしたりしてたっけ。そのせいで周りがおろおろすることもあったんだけど、不思議と皆彼女を好きだった気がする。

確かな年齢は覚えていないけれど、そのおばさんは七十年くらい…いやもっと長く生きていて、大病らしい病気ともあまり縁がなくて、生涯ずっと誰かに囲まれていた印象が残っている。本当にその「ふれあい」が健康や長寿につながったのかどうかは正直分からない。ただ、その可能性を全否定できるほど簡単でもないような気もしている。

多分、おばさん自身には身体独自の知恵みたいなのがあったんじゃないかなぁ。「言葉」より先に伝わるもの、「温度」とか「重さ」とか…。今考えると、人間同士の絆って感情だけじゃなく身体的な行為でも作られる部分、大きかったんじゃ…。

私たち自身、「ふれること」を自然に忘れてしまった訳ではなく、何となく社会的に控えるようになっただけなのかもしれない。そして、それを少しずつ取り戻すタイミングなんじゃ？と思う日もある。

話は飛ぶけど、この感覚…昔読んだ本や映画にも似たエピソード出てきたような…。まあ、とりとめなく考えてしまうけれど、一度立ち止まって自分と他者との境目について考えてみても損は無さそうだ――そんな風にも感じる今日この頃。

スマホのせいにしたくなる。インスタとか、最近流行りの短い動画アプリもやっぱり気になる。でも、本当にそれだけかな？なんだか、それだけじゃない気がする。技術の進歩はたしかに影響あるかもしれないけど、文化とか、社会の構造自体が変わってきたからとも言えそう。あと…疫病もね。色んな要素が少しずつ混ざり合って、人と人との触れ合いが日常から消えてきたような。

例えば、昔の話になるけど、七十年以上前は一人暮らししてる世帯なんて全体のごくわずかだったみたい。それが今では、一人で住んでる人が三割くらいになったって聞いたことある。だから、ご飯も一人で食べたり、寝る時も誰も隣にいなかったり。毎日のハグとか、ちょっとした肩ポンとか…そういうの減っちゃうよね。一人暮らし＝必ず触れ合い不足ってわけじゃないとは思う。ただ、そうなりやすい環境にはなる。

それとルールも大きく変わったと思う。学校や職場でも、「お互い触れない」って決まり事が増えた気がする。その理由には安全面とか尊重とか色々あって、大切なのは間違いない。ただ、その結果として良い意味でのスキンシップまで減っちゃった例も多そうだなって感じることがある。特に男の人の場合は…友達同士でも妙に気を使うというか、下手すると誤解される心配をしてしまうケースも見受けられる。

あとはコロナみたいな感染症の流行。それでまた状況が変わったようにも思える。

コロナがきっかけだったと言われることが多い。触れ合うこと自体が、あの頃は本当に控えるように言われていた気がする。誰もが一定の距離を取るのが当たり前になり、それを守ることがちょっとした美徳みたいな雰囲気すら漂っていた時期もあった。何となく、その後もしばらくそういう感覚は消えずに残っているようだ。

たとえばイギリスで行われたアンケートによれば、最近では家族以外とハグする頻度が以前よりかなり減ったと答える人たちが目立つとか。ただ、どれくらいの割合なのかは曖昧で、半分近くという話も聞いたけれど、本当のところはよく分からない。

今でも慎重な空気は続いているようで、「触れる」こと自体に少し引っかかりを感じてしまう場面もある。それに加えて、デジタル社会の進展も影響しているんじゃないだろうか。メッセージアプリやビデオ通話、ちょっとしたスタンプやリアクションだけで会話が成立してしまう時代だしね。連絡そのものは昔より圧倒的に増えた印象だけど、不思議なほど直接会って触れる機会は減ったまま。

そんな流れの中で、「手で触れる」という行為自体、前よりずっと遠ざかった気もするし、人によっては少し避けたいと思っている場合もあるみたいだ。だからと言って全員そうとは限らないけど……まあ、この辺りはいろんな要素が複雑に絡んでいるようにも見える。

触れることが少し減ったくらいで、そんなに大きな違いがあるのかと疑問に思う人もいるかもしれない。けれど、多くの研究が示しているのは、身体的なふれあいはただの気休めや感傷とは言えないらしい。そもそも、人間はそういう接触に反応するようできているみたいで、例えば誰かにハグされたり、手を握ったり、肩を軽く叩かれたりすると、不思議と色々なホルモンが動き出すと言われている。オキシトシンという名前のものが増えてきたり、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが穏やかになってきたり。副交感神経も関わるからか、血圧や心拍数まで下がる場合もあるとか。

これらって一見すると小さな変化だけど、自律神経とか免疫系など体内バランスには意外と影響しているようだ。逆に、ずっと触れ合いを避けて暮らしていた人たちって、一般的にストレス値が高くなる傾向だったり、免疫力もちょっと弱まることも多いらしい。痛みに敏感になるケースとか、不安や落ち込みを感じやすくなることも報告されていたと思う。

マッサージを受けた患者さんについて調べた研究では、「ナチュラルキラー細胞」という体を守る役割の細胞数が増加したという話も聞いたことがある。ただ、それほど劇的な変化ではなくても、小さな積み重ねとして意味はありそうだ。他にも、生まれて間もない赤ちゃんへ優しく撫でるケアを行ったところ、体重増加が早まったり、一部で合併症リスクが低下した例などが報告されているとか。

要するに…触れることって単なる癒し以上の役割を持つ可能性はありそうだし、中でも免疫調整や発達面へのサポートになる場面は少なくない。しかし状況によって結果には差異も出るので、一概に絶対とは言えない部分も残されている印象だ。

触れ合いって、子供の頃から何となく影響があるみたい。幼い時にたくさん抱きしめられた子は、情緒的なバランスが取りやすいって言う人もいる。でも、まあ全部のケースがそうだとは限らないけど。攻撃的になりにくいとか、そういう話も聞いたことがある。思春期くらいになると、前向きなスキンシップを受けて育った子は、人との付き合い方がちょっと自信ありげになる場合も多いんじゃないかな。もちろん例外もありそうだけど。

大人同士でも、なんとなくスキンシップが少なくて寂しい関係だと、ストレスを感じることが増えたりする人は結構いるとか。ただ、それが直接的な原因かどうかは一概には言えない気もする。満足度もちょっと下がるという話を耳にしたことがある。

生まれてからずっと、接触って体の調子を整えたり、人との距離感を伝える役割を果たしてるらしい。逆に、そのぬくもりが無い状態…つまり「触れない」生活は、特に変わったことは起こらないと思われるかもしれないけど、本当は影響ゼロではなさそう。誰かの観察によれば、「何となく違和感」とか「落ち着かなさ」が出てくることもあるみたいで。それほど単純じゃないのかもしれないね。

文化の違いで、触れ合い方はけっこうバラつきがあるみたいだ。ある人類学者によれば、「よく触れる地域」と「ほとんど触れない国」が昔からあったとか。南米やイタリア辺り、中東もなんとなく距離が近いらしい。一方で北欧とか東アジア、それに英語圏では、まあ控えめな雰囲気が感じられるそう。

昔、パリの高校生とマイアミの若者グループを比べた観察記録を見かけたことがある。細かい数字は忘れたけど、フランスの子たちは1時間に何十回も軽く肩を叩いたり、冗談ぽく押したりしていたって話だ。それに比べてアメリカ側はその十分の一くらいしか接触しなかったとか…いや、その半分もなかったかな？それより会話でちょっとした言い争いが目立ったという印象だった。ただ、この二分法みたいな見方だけじゃ、今の時代には当てはまらない気もする。

だんだん世界中で文化の壁がぼやけてきているような気配。スマホなんかが普及してからは特に。例えば、今どきパリ在住のカップルでも祖父母世代ほど頻繁には手を繋がなくなっているかもしれないし、韓国の若者なら友達よりネット通話に多く時間を使う日も増えてるっぽい。そのせいなのかどうか、「肌と肌」のふれあい自体全体的に減少傾向っていう話も聞こえてくる。

そしてもうひとつややこしい点として、性別による違いも絡んできたりする。全部まとめて考えると、「触れる」という行為そのものへの価値観や習慣は時代ごと・場所ごとでかなり揺れているようにも思える。

性別の役割がどう変わってきたか、よく話題になるけど、身体的なスキンシップに関しては、未だに何となく昔ながらの期待が残っているみたい。女性の場合、例えば誰かを抱きしめたり、ほっぺに軽くキスしたり、励ましで手をそっと添えたり――そういうことを自分からやっても特に気にされない場面が多い。でも男性だと、それとはちょっと違う空気が漂うこともあるとか。

思えば、男の人は友達同士でも触れ合うことについてあまり自由じゃない、と感じる場合がそれなりにあるらしい。誤解されたら困るとか、「男らしさ」っていう曖昧なイメージから離れられないとか、小さいころそういうふるまいを見てこなかったとか――色々理由は考えられるけど。触れるという行為そのものが、ごく一部の状況以外だとほとんど登場しなくなる。恋人や家族ならともかく、一緒にスポーツする仲間だったり、お酒の席で酔っぱらった時くらいしか…。それでも突然ハグされたりすると身構えてしまう男性もいるみたい。

いつからかわからないけど、「触れる」という日常的な習慣が消えてしまった後、人によってはその不足感を埋めるために新しいサービスを使うこともあるようだ。例えば、日本でも噂で聞いたことあるけど、大都市では「プロのハグ師」みたいな職業が生まれていて…セラピストでも風俗でもなくて、とにかく一定時間、人肌の温もりを提供してくれるというもの。一緒に横になって話したり、ただ近くで存在感だけ感じたかったり、人によって希望はいろいろ。

それだけじゃなくて、大人数で集まる「お泊まり会みたいなイベント」も開かれることがあるとか。参加にはルール説明や同意確認なんかもあって、安全面への配慮もうっすら感じる。全員服は着たままで、その場の雰囲気は自己啓発セミナーと子供向けパーティーの中間くらい？体験した人によれば少し不思議でぎこちない時間になることもあるそう。

こうしたサービスについて冷やかす声も時折聞こえる。ただ、それ自体よりも、「普通だった触れ合い」が当たり前ではなくなった社会だからこそ、わざわざお金と時間を使って求める人たちが出てきている――そんな現象として見えている、と言えるかな。

重たいブランケットが体に圧をかけてくれるやつ、動物のぬいぐるみとか、クッションを抱きしめる人も多いみたい。最近はロボットで人の手触りを真似するものまで作られてるって聞いた。あとは呼吸しているように感じる枕…そんな商品もあるとか。ただ、それだけじゃやっぱり本物の代わりにはならない気がする。でも全く何もしないよりは、多少は気持ちが楽になる人もいるんだろうな。

赤ちゃんの話になっちゃうけど、昔からよく言われているように、たくさん抱っこされる子はなんとなく安心して過ごせるらしい。泣き声も少なくなる傾向だって言われてたかな。体重も増えやすいみたいな話を聞いたことがある。時間が経ってから知能テストをした時にも、そういうスキンシップが多かった子どもの方が高めの結果になるケースが結構あったみたい。まぁ全部の子に当てはまるかわからないけど。

逆に触れ合いがほとんど無かった場合――これは有名なルーマニアの施設で育った子供達の研究で知られていると思うけど――食事や服など最低限足りていても、発達が遅れたり、小柄だったり、感情面で不安定さを見せたりしたケースが目立ったという報告もあったそうだ。一部では、大きな成長の壁にぶつかってしまうことさえあるとも言われている。

大人になってからでも、人との距離感とかストレスへの耐性…そういう部分にも影響が残ることは珍しくないらしい。本当に、ごく簡単なふれあいだけでも、人間同士のお互いへの信頼感というか、生きづらさを減らす助けになる可能性は否定できないかもしれないね。でも孤立や自分一人で大丈夫という考えと、本当の強さとはちょっと違うところなのかなぁ、と時々思ったりする。

今、どれくらいの子どもたちが、ほとんど触れ合いのない環境で育っているのだろうか。七割前後か、それとももっと少ないだろうか。最近は、親がかなり長時間働くことが増えてきているし、画面を見る時間も伸びてる気がする。学校では接触を避けるように指導される場面も見受けられるし、文化全体としても昔より慎重な空気感みたいなものが漂っている感じ。おそらく、一部の子どもたちは言葉やおもちゃには困らなくても、人のぬくもりやスキンシップはあまり得られていないのかもしれない。これって、小さなことだと思われがちだけど、本当はそうでもない気がする。

時代は進んで“現代的”とか“ポスト何々”なんて言葉が使われたりする。でも、不思議なことに身体そのものは昔からあまり変わっていないようで、人との距離感や温度を求める部分は今も残っているらしい。手と手を軽く重ねるあの一瞬。それすら、必要以上に遠ざけてしまうと、ちょっとずつ違和感みたいなのが生まれてしまう…そんなふうに考える人もいるみたい。

独立心とか抽象的な能力を評価されたり、“つながり”というものすらサブスクやサービスとして提供されるこの頃。誰かの投稿に「いいね」を押したり、絵文字だけで同情を表したり―多分、多くの人たちはこういう新しいコミュニケーションにも慣れてきていて。でも、そのぶん実際のぬくもりや直接的なふれあいからは少しずつ遠ざかってしまっているようにも思える。

まあ、全部悪いとは言えないし、新しい形にはそれなりの意味合いもある。ただ、「土台」になるような触覚的な安心感―これはたぶん数十年経ってもちょっと大切なのかな、と感じたりする。この先どうなるかはわからないけれど、「体」はまだ昔ながらのままで動いていて、そのギャップに戸惑う瞬間がこれから増えていく可能性もあるかもしれない。

人の神経系って、どうやら記号じゃなくて感覚で反応してるみたいだ。ずっと昔からそうだったのかもしれないし、最近になって特に意識されるようになった気もする。触れるということを忘れた社会は、ただ孤独になるだけじゃないって話を耳にしたことがある。どこか冷たくなったり、なんとなく壊れやすく感じたり、人と人の間で疑い深さが漂うような雰囲気が出てきたり。ストレスの多い時期には、それが原因で簡単に割れてしまう場面もあるとか。

政策とかプラットフォームで「触れる」を取り戻せるかといえば、多分それほど単純じゃなさそうだし、大規模に拡げてもあんまり意味ないような気もする。むしろ小さな動作――取引でも計算でもない、ごく自然な行為から始まるものなのかな。例えば肩にそっと手を置いたり、ちょっと長めに目線を合わせたり、ハグもちょっとだけ普段より長めだったり。それぐらい控えめで曖昧なアクション。

人工的な親密さとか新しい時代について語る人も最近増えてきたけど、本当の意味で身体が伴う関わりは、その場その場で意識的に選ぶ必要がありそうだと思う。これについては色んな考え方があるけど、ときどき立ち止まって振り返るくらいなら悪くないんじゃないかな……